ANCA関連血管炎を知っていますか?
この記事では
ANCA関連血管炎の解説をしています。
まずは気になる症状をチェックリストで
確認して、医師へ相談してみましょう。
ANCA関連血管炎とは
What is ANCA associated vasculitis?
血管炎とは、全身を走っている血管の全てもしくは一部に炎症が起こり、血管が破れたり、詰まったりする病気です。ANCA (アンカ)関連血管炎では主に全身の細い動脈・静脈や、その先につながる毛細血管が傷つけられることで、細い血管が多く存在する臓器や器官(腎臓や肺、皮膚目、耳、鼻など)に障害を引き起こします。
ANCAは「Anti-Neutrophil Cytoplasmic Antibody(抗好中球細胞質抗体)」の略称で、自己抗体の一つです。自己抗体とは、通常であれば体内に侵入したウイルスや細菌に対して働く「抗体」が、免疫が正常に機能しないことで、異物ではない自分の体の特定の細胞や組織に反応するようになったものです。
ANCA関連血管炎では、ANCAが体の防御機能を担う「好中球」を標的にして結合します。ANCAと結合した好中球は正常に機能しなくなり、周囲の血管を攻撃するようになるため、血管炎が生じると考えられています。

ANCA関連血管炎の種類
Type of ANCA associated vasculitis
ANCA関連血管炎で代表的な病気は以下の3種類です。
- 顕微鏡的多発血管炎(MPA)
- 多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
- 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)
国内で確認されているANCA関連血管炎の患者さんは約19,000人(6,000~7,000人に1人)といわれており、患者さんの数は非常に少ないです1-4)。
特徴
顕微鏡的多発血管炎
(MPA)
- 3種類のうち、日本では最も患者さんが多い
- 腎臓、肺、神経の症状が現れやすい

多発血管炎性肉芽腫症
(GPA)
- ①目、鼻、耳、のど ②肺 ③腎臓に症状が現れることが多い
- 鞍鼻が現れることがある

好酸球性多発血管炎性
肉芽腫症
(EGPA)
- 気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加したあとに続いて起こる
- 神経、皮膚、消化器、肺、心臓の症状が現れやすい
- 心臓の疾患を合併することがある

ANCA関連血管炎の症状
~進行すると透析が必要になる場合も
Symptoms of ANCA associated vasculitis
血管炎が起こると、多くの場合、微熱や倦怠感といった全身症状とともに、さまざまな臓器や器官(腎臓や肺、皮膚、神経、鼻、耳、目など)にも異常が見られるようになります。
どの症状が現れるかは人によって異なり、いろいろな組み合わせで出たりすることもあります。
重篤な場合は、腎臓の機能が低下して透析治療※が必要になるなど、内臓機能に障害が生じる場合もあります。
※ 低下した腎臓の機能を補うため、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする治療法です。
週2~3回程度通院し、1回あたり4~5時間程度の治療を行う「血液透析」と、患者さん自身のお腹に入れた透析液を1日4回程度交換して行う「腹膜透析」の2つの方法があります。
ANCA関連血管炎で現れる体の部位別の主な症状

全身の症状
- 発熱
- 関節痛
- 疲れやすい
- 筋肉痛 など
- 体重減少
目の症状
- 視力低下
- 眼の充血
- 眼球突出 など
肺の症状
- 息切れ
- 痰がからまない咳
- 咳や痰に血が混じる
など
鼻の症状
- 鼻づまり
- どろどろした黄色い鼻水
- 鼻血 など
腎臓の症状
- 血尿※
- 蛋白尿※
- クレアチニンの検査値が
高い など
※ほとんどの場合尿の
見た目ではわからない
耳の症状
- 難聴
- 耳の奥が痛い など
のどの症状
- のどが痛い
- 声がかすれる など
消化器の症状
- 腹痛
- 便に血が混じる など
皮膚の症状
- 赤色~紫色の斑点(特に下肢)
- 網目状の模様(手足) など
神経の症状
- ピリピリする痛み
- ジンジンするしびれ
- 力が入りにくい
- 動きが悪い など
気になる症状がある方、その原因が分からずに悩んでおられる方は
チェックリストで
症状を確認してみましょう。
※キッセイ薬品工業株式会社のサイトへ移動します
ANCA関連血管炎の治療
~適切な治療で症状を抑える
Treatment of ANCA associated vasculitis
ANCA関連血管炎は現状では完全に病気を治すことが難しく、治療しなければ生命に危険を及ぼします。しかし、症状をおさえる治療は可能な病気ですので、治療の目標は、血管の炎症を抑える治療(寛解:かんかい)の達成と、その維持(寛解維持)になります。
治療は、お薬での治療が中心となり、免疫機能の異常な活性化を抑える作用のあるお薬を用いて症状をおさめます。最初の数カ月間は、血管の炎症を抑える治療を行います(寛解導入療法)。
その後寛解になったら、再び炎症が現れること(再燃:さいねん)を防ぎ、落ち着いた状態を保つ治療を続けます(寛解維持療法)。
寛解導入療法
寛解導入療法の方法は、症状に合わせて決定しますが、多くの場合、入院して治療することになります。お薬は、主にステロイド薬と免疫抑制薬が用いられます。
ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)
免疫機能を抑える作用や炎症を抑える作用があります。ほとんどの患者さんの治療で使われます。
副作用:感染症、糖尿病、骨粗しょう症など
免疫抑制薬
免疫機能を抑える作用があり、飲み薬や注射のお薬があります。ステロイド薬と一緒に使われることが多いです。
副作用:感染症など
静注用ヒト免疫グロブリン製剤
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症で、手足のしびれや痛みなどの神経障害が改善されない場合に、点滴で使用します。神経障害が改善されない場合に、点滴で使用します。
副作用:ショック、血栓塞栓症など
選択的C5a受容体拮抗薬
顕微鏡的多発血管炎、および、多発血管炎性肉芽腫症の治療で使用される飲み薬です。
副作用:感染症、肝機能障害など
寛解維持療法
寛解導入療法によって寛解になると、寛解維持療法に切り替えられます。寛解維持療法では、少ない量のステロイド薬や免疫抑制薬の飲み薬が用いられます。

※ 病気の種類や重要度により治療内容は変わります
できるだけ早い時期に診断を受け、専門医のもとで病気の初期にしっかりと治療すれば、多くの患者さんは寛解を達成できます。治療開始が遅れたり、治療の反応が良くなかったりすると、寛解までに時間がかかり、腎臓や肺など臓器の機能障害が残ってしまいます。
また、一度寛解になっても、再燃することがありますので、定期的に専門医の診察を受け、きちんとした服薬と通院を続けましょう。
医療費補助
ANCA関連血管炎は、患者さんが非常に少ないために、原因や治療法の研究が難しい病気です。
このため、わが国では難病指定とされており、ある一定以上の症状がある患者さんは医療費助成制度の対象となり、国から医療費の補助を受けることができます。
ANCA関連血管炎の診断
~早期の診断が鍵
Diagnosis of ANCA associated vasculitis
ANCA関連血管炎は、早期診断がとても重要な病気です。しかし、残念ながら一般的な検査だけでは、早期診断は簡単ではありません。ある調査では、約半数の患者さんは、診断が確定するまでに3カ所以上の病院を受診していたという結果が出ています5)。
それでも近年は、血液中のANCAを測定することで、早い段階で診断できるようになってきました。ANCA関連血管炎の診断には、血液検査のほか、尿検査、画像検査(X線検査やCT検査など)、生検(異常がみられる部位の一部を針などで採取し、顕微鏡で詳しく調べる検査)などさまざまな検査が行われます。
原因がよくわからない血尿や蛋白尿などの腎臓の症状があったり、上記でご紹介したANCA関連血管炎の主な症状があったりする場合には、できるだけ早い段階で、専門医の診断を受けるようにしましょう。
ANCA関連血管炎の可能性がある場合は、
専門的に診療を行っている
医療機関・医師に相談しましょう。
ANCA関連血管炎を相談できる病院を探す
- 1) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/86、2022年8月現在)
- 2) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/4011、2022年8月現在)
- 3) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/3877、2022年8月現在)
- 4) 難病情報センターホームページ(https://www.nanbyou.or.jp/entry/5354、2022年8月現在)
- 5) 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業) 難治性血管炎に関する調査研究班 有村義宏、難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一、びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間栄
- 「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017」、35、診断と治療社、2017年
提供:キッセイ薬品工業株式会社